脳性麻痺を始めとする中枢性の運動障害をもつ障害児に対する整形外科的治療を50年近く行ってきました。股関節脱臼、膝・足関節の変形などに対する装具療法、手術的治療、運動療法などは殆ど基本的な考え方、方法は確立しています。 しかし、脊椎変形(特に側弯症)に対してはその頻度は高く、生活に困難を伴うことが多いにも拘わらず、治療に難渋してきました。装具療法は従来の硬性装具を用いると、皮膚障害、緊張亢進、疼痛、呼吸困難などが多く発生し、治療継続すら不可能でした。近年は椅子の改善と運動療法で治療し、それで無効であれば手術適応になると言われています。
従来の側弯治療装具は“Milwakee型”が原点で、装着感を良くするために頸椎Ringを除去した“Under Arm型”が考案されてきました。しかし、これらはいずれも特発性側弯用に開発されたもので、基本的治療概念は同じなのです。つまり、強力な他動的矯正を加え、その形を硬性材料で強力に固定するものです。しかも、支柱の基礎は両腸骨稜を利用し、骨盤の上に構築するなどの考え方は皆ほとんど同じなのです。 (写真1,2)
それに対し、2007年に全ての違った治療概念、構造による新しい体幹装具の開発を始めました。腸骨稜を支点にするのではなく、外転筋・大臀筋など軟部組織を広く利用するものです。支柱は弾力性のあるポリカーボネイトを用い、緩やかなそして持続する矯正力を働かせるものです。脊柱を固定するのではなく、常に可動性を持たせるようにしました。(写真3,4)
2007~2013(平成19~25)年の間に製作したDSBの症例780例(図1)と、 疾患別内訳(図2)を示します。2014(平成26)年4月には938例にまで増加しましたが、 治療中断した例が91例(9.7%)になりその内訳並びに理由を図3,4に示します。
装着についてはてんかん発作、呼吸障害、胃瘻などがある場合は、 夜間の不測の事態を予防するため原則として夜間の装着はしないよう指導をしています。 また装着時間は親の自由に任せていますが、平均8.5時間(2~23時間)となりました。
1.側弯の変化について
2.ADL での QOL への影響について
装着による苦痛が従来の硬性装具の場合より少なく、
ADLでの介護が容易になるので手離せないとの声を多くいただきました。
側弯そのものの十分な改善が困難な例もありますが、進行を抑制できる例も多くありました。
以上の結果から、私は神経筋疾患による側弯変形の治療には適応される価値があると考えています。
【症例1】
15才CP(SQ)初期ですでにCobb角68°を示しています。DSBにて38°になり、できなくなっていた座位が可能になりました。しかし、20歳では85°に進行しています。 19才では46°に改善をしています。
1.座位が可能
2.抱きやすく、介護が楽になる
3.8時間装着が可能となる
4.オムツの交換がやや困難
【症例2】
16才CP(SQ)、初期にCobb角57°を示していますが、 19才では46°に改善をしています。(写真8,9)
【症例3】
2才 8番染色体異常。初期のCobb角は68°ですが、6才では58°に改善をしています。 (写真10,11)